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2011/03/29 14:04 |
手を繋いで |
「手を繋いでもいい?」
学校の帰り道。相棒がふと俺に話しかけてきた。
「ああ」
急にどうしたんだ?
「えへへ、こうやってどうどうと手を繋いでも見えないから誰もわからないね!」
俺の姿は相棒にしか見えない。そのことを相棒は触れないようにしていたと思っていたのに。
どうしたんだ?
俺は別に自分が誰にも見えなくても構わない。
相棒が見てくれさえすれば。
「…美術館…どうだった?」
「うん?ああ…」
童実野美術館。
俺は杏とそこへ行き、自分の過去に向き合った。
おそらく自分は過去にファラオと呼ばれていたこと。
そして名前を削り取られ、そこに過去の記憶が隠されていること。
相棒はその時のことを知らない。心の中に入っていたからだ。
「…ねぇ、何かわかったの?キミのこと…」
「…いや、わからなかった。何もなかったぜ」
咄嗟に嘘をついてしまった。
本当のことを言いたくなかった。
自分の過去なんてどうでもいい。今は、今は相棒とずっと一緒にいたい。
「そうなんだ…。残念だね」
「…ああ…」
チク…
胸が痛い。
初めて相棒に嘘をついた。
「こうやって、手を繋いでるとわかるんだ」
ドキっとした。俺の嘘がばれたのか。
「あったかいね。キミの手!」
「相棒もあったかいぜ」
ギュっと握る。小さくて柔らかい相棒の手。
そうだ。この手をずっと繋いでいたいんだ。
過去のことなんて。俺が誰だなんてどうだって…。
「ずっと…繋いでいられるかな?」
相棒が足を止める。
「え?」
「永遠なんてないよ…」
手が離される。
相棒の目が潤み、口をキュっと結んでいる。
ああ、また泣かせてしまうのだろうか。
俺は相棒を泣かせたくない。
だから、だから過去なんていらない!
「相棒、俺は過去なんていらない。相棒と一緒にいたい」
「ボク…も…一緒にいたい」
夕日が俺たちを照らす。
「どうして嘘つくの?」
言葉が突き刺さる。
違う、俺は相棒を不安にしたくなくて。
「相棒が悲しむとこを見たくなかった」
「ボクはキミに嘘をつかれる方が悲しいよ…」
「相棒と離れたくない」
「それはボクも同じ。でも…もう…」
小さな俺の黒い嘘が相棒の白い心にしみを作る。
そのしみはどんどん広がって、相棒の涙になった。
「ボクは…強くならなきゃ…キミがどんな人だって…受け入れなきゃ…いけない」
「俺は自分の過去なんてどうでもいい!」
「よくないよ!悲しいよ。一緒にいたいけど、ボクはキミの本当の姿を知りたい。それで離ればなれになっても、ボクは…ボクは…」
風が吹き抜ける。寒い。
「相棒…帰ろう。冷えてきたろ?」
「寒い?」
ああ、俺の心が冷たくなっているだけなのか…。
「ボク…どんなことがあっても、キミのことを受け入れる。受け入れるように強くなるから…だから…」
相棒が涙を拭いて微笑む。
「キミみたいにに強くなるから」
相棒、俺は強くない。今だってどうしていいかわからない。
相棒と一緒にいたい。でも自分が何者か考えるとどうしようもなく不安になる。
「相棒、キスしたい」
「…うん…」
相棒を抱きしめる。相棒はまだここにいる。俺と一緒にいてくれる。
キスだってできる。体を抱きしめることだってできる。
柔らかい唇を感じることができる。舌で愛してあげることができる。
今は、まだ…できる…。
「大好きだよ、もう一人のボク…」
唇を離す。
相棒の笑顔がとても悲しそうだった。
「泣いちゃ駄目だよ、そんな顔されたらボク、また泣いちゃうよ」
ああ、俺は泣いていたのか。
自分が怖い。
相棒、もし俺がとても酷い人間だったらどうする?
過去に酷いことしていたらどうする?
それでも俺のことを好きと言ってくれるか?
「手…繋ごう?」
相棒の手。俺の手は本当はとても汚れているんじゃないか?
相棒と手を繋いでもいい人間なのか?
「どうしたの?ほら…」
暖かい手。俺を包んでくれる優しい手。
今は、この手の温もりを感じていよう。
過去なんて考えないように。
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